M3の抽選激化を踏まえたお話

先週、音系同人界隈に衝撃が走りました。

 これ、井手口先生@立教大の論文に載ってたはずのネタによるとM3って春にサークル申込数が激増するんですよね。秋は同年春とあんまり変わらない。
なので、以下ツイートを見比べるとそれなりに妥当な結果です。

とはいえ、会場はTRCのまま。TRCは相当無茶しても全館で2000SP突っ込める会場ではありません。*1

てわけで、会場が変わったり複数日開催に踏み切れない限り、今後もM3の抽選は激化していくのだろうな、と予想しています。14春で1200SP→15春で1500SP→16春で2100SPと考えると春ごとに大まかに3割サークル数が増えると想定できるので、17春には2800SP, 18春には3500SPってところでしょうか。当然TRCには突っ込めないので、抽選が激化します。限界1500SPと考えると17春で競争率1.8倍、18春では2.3倍くらい?「受かって当たり前」というよりは「落ちて当たり前」の数字ですね。
個人的には、来年春からM3抽選落ちを前提としたアクションを真剣に考えるべきだと思っていたので、ちょっと前倒しでサークル数が増えてて驚きではあります。

で。倍率2.3倍だと2回連続で落選するサークルが3割、3回連続が2割弱になります。ここまで行くと、あるサークルが3回連続で落選したからといって即売会から嫌われているのか、真に抽選で落ちたのか、判断が難しくなります。*2

一般論として、コミケやM3といった大規模(全世界最大規模 / ジャンル最大規模)の即売会イベントになると、サークル参加できるかどうかはサークルの運営に大きな影響をもたらします。新作のサイクルにも、サークルとしての収入源の問題にも影響を与えます。なので、「即売会に参加する権利」は一種の利権、もしくはサークルをコントロールする手段として機能します。
例えば即売会がそういうことを考えていないとしても、利権や手段として機能してしまうという冷徹な現実がある結果、以下のようなツイートが飛び交うことになります。

 こういうツイートが飛び交う=疑心暗鬼に対して、最も有効な解決策は情報のオープン化だと言われます。ですが、情報をオープンにすると逆に「このサークルを通せ」的な脅しに脆弱になりませんかねぇ?

何はともあれ、準備会スタッフが異常な発言をするのは疑心暗鬼を引き起こさないためにも控えてほしいと思うところです。例えば個別のサークルを名指しでdisるとか。*3こういう不祥事が起きてしまうと何がまずいかというと、その対象になったサークルが「落選した」ときに、不祥事が尾を引いて落選した(=そんな騒ぎを起こすサークルなど追放してやる!=参加するなら文句言うな!)のか、真に抽選で落選したのか、判断がつかなくなるからです。

私の元にも、「M3に参加できているのだからM3の文句を言うな」という意見はそれなりに届いています。なんですが、これって「日本政府のお世話になっているのだから日本政府の文句を言うな」と何も変わらないんですよね。M3の運営で「まずい」ところはちゃんと声をあげていかないと、M3も良くならないと思いますよ。

*1:スタジオYOUで1展でも1000SPちょっと越えるくらいのはず。前川たんに配置作業させたら2000SP突っ込む気がしなくもないですが、とりあえずPiO大に700SP弱を突っ込んだ昨年のPiO砲雷撃戦xもう恐のレビューをごらんください。

*2:コミケは2回連続で落ちると次が救済措置でしたっけ。

*3:最近、「サークル配置/抽選結果発表前に抽選結果を落選サークルにバラした」スタッフの話を聞きました。裏付けが取れていませんが、本当だとしたらとてつもない不祥事と考えます。

当面の即売会参加予定

えっと、まずは速報的にblogエントリにて。

4/24 M3-2016春、申し込みました。
サークルカットはこちらで。

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新作の情報は、作品リリースができそうになり次第改めてお知らせします。

そして、まどマギCDは「うみのあん」様委託で1/17(ビッグサイト), 3/6(京都), 5/8(ビッグサイト)にも並びます。3/6合わせで新作を画策中。

さらにその後、5/8は例大祭にHarmonie Chromatique名義での参戦を予定。こちらも新作を予定しております。
5/5のコミティアについては軽く悩み中です。出るとしたら春M3の新作をそのままスライドで出す予定。

そして順序が前後しますが、ネット方面。2/19-21のAPOLLO 第3回、参加申し込みました。

なんか新生活に突入して即売会参加頻度が激増しているのはどういうことでしょうね?(ぉ

あけましておめでとうございます、ご挨拶。

さて、2016年です。新春のお慶びを申し上げます。

今年も皆様には大変お世話になると思いますので、先にお礼申し上げておきます:ありがとうございます。

去年は人生最大級の転機があり、後半戦で生活が一変しました。その結果即売会参戦数が増えたりするのはなんだかなぁ、と驚きなところもあるのですが、まあそれはそれで。

今年は、もうちょっといろいろアウトプットして、音楽や建設的な議論といった話を受け止めてくださる方に届けることを心がけていきたいな、と思います。例えばブログエントリ一つでも旬のネタに言及すれば確かにアクセスは取れるんですが、それが音屋活動や継続的なアクセスに繋がるか?というと全然そんなことはなくて、なかなか厳しいな、と思うところです。

音楽方面では春にそこそこの新作を出した後、秋から人魚姫企画が本格稼働の予定。同人社会方面の話でも昔の織姫blog時代から議論してきた同人社会のジャーナリズム論とか、その延長で音系同人のコミュニティ形成の問題、適切なインセンティブを構築する方法論、ペナルティの適切な運用とか、いろいろとネタはあります。

それでは、今年も引き続きよろしくお願いします。

冬コミ:おしながき

さて、いよいよ冬コミですね。

おくればせながら、Harmonie Chromatiqueの冬コミお品書きをお知らせいたします。

12/29(1日目)

東セ-34b 「水底のステラ」(海野みやびさん)にて、以下の作品を頒布します。

アルクロ作品

先日のM3でリリースしたまどマギピアノCDを増産いたしました。コミケでも頒布します。頒布価格は500円。

参加作品

海野さんの同人誌「みくら☆マギカ」(……だったよね?)に、写真で参加しています。魔法少女たちと行く御蔵島旅行記、お楽しみに!

12/31(3日目)

自分のサークルスペース:東ケ-55aにて、以下の作品を頒布します。

  • まどマギピアノCD(2015/10作品, 500円)
  • Magna Solemnitas(2015/04作品, 1000円)
  • 変奏曲集(2014/10作品, 1000円)

上記の作品は十分な在庫をご用意しております。

  • ad Bacchum! (2014/04作品, 1000円 each)
  • ピアノ協奏曲, Khronos (各 1000円)
  • CLANNAD二次創作 ボイスドラマ・演劇DVD “CAILLINAD”シリーズ
  •  ボイスドラマ2作品:各500円
  •  演劇DVD: 1000円
  • 管弦楽版歌曲集, ピアノで綴る旅の物語(各500円)

以上の作品は初回頒布から時間がたった作品のため、搬入量を抑えております。

批判するなら的を絞ろう

ネット上でアマチュアの人たちがやってる批判って、たいてい的が絞られていないんですよね。
例えば武雄の樋渡前市長絡みだと、こんなまとめサイトがあります。

sites.google.com

「まとめ」が単なる羅列であって補助線引きになってません。一つ一つのページを見ても何が問題なのか、端的な記述がありません。論点が整理されていない、とも言います。その結果、プロのジャーナリストからは一刀両断を食らいました。

2年前の段階では、武雄問題はプロのジャーナリストが扱うには不適切、と認識だったわけです。アマチュアが暴れ回って問題点を並べ立てた結果、問題点をたくさん示すことができるようになったものの、一方でプロのジャーナリストにとってはアンタッチャブルな空間ができました。
今から考えてみれば、アマチュアが暴れてプロのジャーナリストが言及しづらい空間を創り上げてしまったことが、武雄市の樋渡・小松市政を延命させた原因の一つ、とすら言えるかもしれません。

たいていのネット炎上事案でも同様の構図が言えます。例えばこれ。

s-kokuhatsu.seesaa.net

上記ページでは3つの問題点が指摘されています。

  1. デザインフェスタ等の二次創作禁止イベントに二次創作物を持ち込み頒布した疑惑
  2. 刀剣乱舞関連グッズで、ニトロプラスへのアマチュア版権申請書類を提出した後に、書類に記載すべき製品の仕様を変更した
  3. 画像素材集に使われている画像を使用し、必要とされている著作権表示を怠った

ですが、1つめについては当事者からの一刀両断があり、あっという間に根拠が崩れました。*1さらに言えば、持ち込んだからといって頒布したとは限りません。デザフェス等でも二次創作品目の持ち込み(頒布を意図しない)を禁止する規定はないはずなので、糾弾に必要な証拠は「持ち込みの証拠」ではなく「頒布の証拠」です。もっと言ってしまうと、デザフェス会場内での二次創作頒布は「契約違反」ではありますが、刑事罰を伴う法律違反=犯罪ではありません。

2つ目については、そもそも文中で論旨が揺れています。製品の仕様を変更して別製品になるのであれば、当初の仕様の製品と後の仕様の製品では点数制限(200点)がそれぞれにかかりますので、後者の申請は「当然通ります」。別製品にならないのであれば、点数制限の問題はありますが「通算200点」になるはずなので前者の製品を生産していないならば問題ありません。貴方の言いたいのはどっちなんでしょうか?

3つ目が真の問題です。これは言い逃れのしようがありません。というわけで、本来はこの問題に的を絞るべきなのです。

批判に社会を動かす力を持たせたいなら、真の問題をピンポイントで突きましょう。真に力強い主張はシンプルな表現ができるはずで、長々しい批判が必要な局面ってのは、多分批判のターゲットを絞り切れていないのです。

*1:この件についても、実は当事者の説明が真に正しいか?という疑問があります。ですが、「嘘だ!」と決めつけるのにも証拠は必要です。

ネット即売会の未来を考える

先日開催された「APOLLO」の第2回。早速第3回の告知が上がっているみたいです。

2月と6月のAPOLLO開催がデフォになると、2月APOLLO, 4月M3, 6月APOLLO, 8月コミケ, 10月M3, 12月コミケという流れで、確かに2ヶ月に1回になります。
前回のAPOLLOは500SP以上集めたとのことで、色々問題があれどAPOLLOが支持されていることはそろそろ客観的にも明らかになってきたかな、と。 

 個人的には開発体制の立て直しを最優先してほしいところですが、それはそうと一般的に「ネット即売会」がどんな未来を生み出してくれるのかも考えたいところです。*1

まず、インターネット(というかWebサービス)の特性として、「見たいものだけが見える」仕組みであることがしばしば指摘されています。同人即売会は会場内を歩いていれば否応なしに自分が「見たいと思っていなかった*2」ものに出会えて、そこに新しい作品との出会いの可能性があります。*3 一方で、APOLLOではそういう仕組みってあんまり強くないですよね。ある程度対策取るとは言っていたはずですが、どういう施策だったのか、出店側の私たちにも説明はありませんでした。*4

そう考えると、ネット即売会ってのは、今のままだと即売会というよりはバーゲンセールのアナロジーのほうが通じる空間にならざるを得ない側面があるんじゃないかな、と思ってます。うちのサークル的には前回のAPOLLOで宣伝活動やりきれなかったところがあるのでなんとも言えない部分は残りますが、APOLLOの存在は既存のブランド力が強いサークルほど多くのアクセスを集めて、小さなサークルはなかなか売れない、って構図を強化する一方じゃないかな、と。

一方で、ネット即売会が「即売会」であるからこそ許されることがいくつか見えてきました。例えば無条件のダウンロード販売には良い顔をしない原作者であっても、ネット即売会であればOKという扱いの萌芽があります。即売会は通常のダウンロード販売とは異なり、日時が限られています。だからこそ原作権利者のビジネスとのバッティングが小さく、OKになりうるのでしょう。*5

もう一つ、現状M3もコミケも東京でしか開催されておらず、京阪神都市圏ですら音系同人イベントの規模が小さいままで苦闘している状況を考えると、東京以外の人間が東京に出るコストを支払わずに同人音楽の世界に参加できる、という状況には確かに意義があります。その意味でネット即売会が支持を集めたことは、悪くない結果なのかもしれません。

ネット即売会に関しては当面は「価値の評価については当面はネガティブ寄りの様子見だけど、だからといって否定はせずに、積極的に参加は続けていく」というスタンスで行きたいと思います。

*1:つまりAPOLLOではない何かが同じことを考えたらどうなるのか、でもあります

*2:見たくない、という意味とは違います:念のため

*3:うちのサークル規模だと頒布の数を考える上でも無視できない出会いです

*4:明確な説明でなくてもいいんですが、議論としてどっかのメディアで取り上げられないですかねぇ。それこそKAI-YOUさんあたりがこの手の話に適しているような

*5:そういえばボカロ曲のDL販売規制って、アレ法的根拠どこなんでしょうね。ボカロを使った曲のDL販売を規制するってことはないはずなんで、ボカロをウリに使うための商標権あたりの問題がベースにしているはずなんですが。

主催側立場から、同人即売会への要望を見てみた

主催側の立場から、イベントへの要望について考えてみました。

うちの主催側としての実績&立場はこんなところです。

  • 同人即売会のスタッフ側への参加経験は、主催1回、スタッフ参加数回。混雑イベントへのスタッフ参加は1回だけ。
  • 同人即売会に限らなければ、参加者数百人台後半~規模のイベントに主催クラス(=全領域を見られる立場)として関わった経験は複数あり。特に100人~300人以下程度の規模は数十回単位で経験済み。

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ヘッドとロングテール:オープンなシステムと寡占

APOLLOが無事?始まったみたいです。

で、過去のAPOLLO関連記事。

 

h-chromatique.hateblo.jp

h-chromatique.hateblo.jp

 で、KAI-YOUさんの記事。

kai-you.net

この記事のタイトルにもある通り、APOLLOはランキング偏重時代に対する一定の問題意識を持って活動しているそうです。……が、実際にうまくいくんでしょうかね?
というわけで、なぜインターネットの世界ではロングテールがもてはやされるよりもランキング偏重時代に移行してしまったか考えてみました。たぶん既存の議論が山ほどある世界だとは思うのですが、今回はそのへんの議論を参照できていません*1

インターネットは広大な世界です。が、その全てを見られるわけでもありませんし、インターネットの世界に「体系」はありません。
一昔前、表現作品には体系がありました。偉い先生がたが名作を選定し、そういった作品がまとめられた名作集のようなものが出ていました。それがまさに体系です。一方、インターネットはフラットな仕組みである以上偉い先生ってものは存在しないので、体系を作れません。一方、ランキングは容易に作成できます。で、受け手にとってランキングも体系もあまり変わりません:アクセスしやすいキュレーションとして機能します。ロングテールの活性化ではなく寡占が起きるメカニズムは、おそらくそういうことなのでしょう。

以前花帰葬二次創作の世界をうろついていた頃の話。花帰葬二次の世界は一人がなんとかジャンル全体像を見渡すことができる規模でした。女性向けだとカップリングとかでジャンルが細分化されるので、なおのこと。その結果、体系もへったくれもなく一人が全部を見られるので、ランキングとか無意味でした。大手の有名サークルって存在も見当たらなかったように思います。*2

となると、寡占の発生を回避するにはジャンル規模が小さい必要があるのかもしれません。昔のM3は全スペースを見て回ることもできる規模でしたし、その時代は確かに今より中小サークルが元気だったようにも思います。
今回APOLLOがスペースをジャンル別に分離、さらにジャンル間の回遊性を落としたのは、寡占やヘッドの肥大化を防ぐために「見て回るべき規模」を小さくしたアプローチとしては評価できるように思います。

言うまでもなく、同人社会はオープンな仕組みです。ルールを守る限り誰でも作り手として参入できる。そういう構図があって、拡大していく同人社会を受け止めるために適切に運営された即売会というインフラがある以上、規模の肥大化を食い止めることは多分誰にもできません。

となると、寡占化を防ぐために何ができるか。悩ましいところではありますが、未来に向けてはより小さなマーケットを見つけてアクションを起こしていく、そういうことなのでしょう。

*1:これから調べよう、という段階です

*2:別ジャンルの壁はいたんですけど、女性向けはジャンルの壁を越えて読み手を連れて歩くって構図が基本ありません。なので別ジャンルの構図は気にしなくてOK。

社会的排除の合理性と、自由主義について

合理的に考えたら、社会的リソースを他人より多く消費する市民や、社会に対して多くの収益を還元しない市民を社会から排除するのは当たり前なんですよ。

ですが、特定の市民を「合理的に」排除することは、自由主義の観点からは絶対にあり得ないことです。古くはナチスドイツの優生学やアウシュビッツという失敗例もありますし、わたしたち日本国民は日本国憲法という形でそのようなことを政府がやってはならないということを約束しているはずです。

だから、自由主義の前提には合理性はないのです。合理性が自由主義と対立するのであれば、わたしたちは自由主義を実現するために合理性を捨てるのです。

……と、茨城県方面から流れてきた胸くそ悪いニュースを見て思ってみたり。

www.asahi.com

障害者は社会リソースを一般市民より多く消費するのは間違いありません。福祉ってそういうことですから。
だけど、私たちは自由主義の観点から、障害者が非障害者と同等に生きる権利を持っていることを当然のものとして認識しています。その権利を前提とすれば、社会リソースの消費は問題であるとしても「解決すべき問題」であって、解決方法は「障害者を殺す、生まれなくする」ではありません。