以前、以下のようにアマチュアジャーナリズムの意味合いについて触れた記事を書いてきました。
で、私自身のふだんの立場は、個人的には必ずしもアマチュアジャーナリズムには好意的ではありません。上記の記事で言及した浦賀の件に対する取材は個人的に「よくやったなー」と思うレベルですが、やっぱり問題がたくさんあります。
というわけで、いくつかの問題を議論してみます。
プロパガンダ怖い!
まずは、上記で言及した浦賀の件の検証記事に含まれるプロパガンダ的な内容について。議論の対象は以下のレポートです。
たとえば以下の部分。
スミス@長野氏もくろかい氏も、ケットコムが作成した資料を孫引きで作っていたと自白しているようなものであり、このあと問題になる「権利関係」については、彼らも実は小川さんのことを全くとやかく言える状態になかった。 そもそも「余所んちのを(勝手に)参考にしました」とか、あんまり言うものでもない。
権利関係と言いますが、ケットコムの作成した資料に権利は存在するのでしょうか?*1
東京地裁昭和62年5月14日判決では、契約書の著作権を否定しています。中山信弘東大名誉教授の『著作権法』(有斐閣、2007年)では、「契約書に著作権は存在しない」という前提に立っています。近年では規約文書に著作権が存在するという判決も出ていますが、特殊な条件での事案と読むのが妥当です。*2
上記引用部分は、権利が存在しない「ケットコムの規約」についての著作権を強引に推定している、まさに長野氏たちがやらかした(とされる)偽商標権の主張と似た構図があります。
本筋から見たら上記規約問題は大きな問題とは言えないところ*3ですが、それを非難するために勝手に「存在しない権利」をでっちあげる行為が許されるという考え方は、悪質なダブルスタンダードです。
上記レポートは全体としても、ファクトの指摘やファクトからの推理と、著者の価値判断を含む言葉の選択が渾然一体となっており、(確かにファクトを明らかにした面は金字塔と言えると思いますが)プロパガンダの誹りを免れないと考えます。
補助線引けない!
そして、アマチュアジャーナリズムが力を発揮しようとしている武雄市をめぐる一連の事案について。*4
武雄市をめぐる一連の事案では、 @keikuma さんをはじめとした多くのアマチュアジャーナリストが情報公開請求を駆使して情報を収集してきました。プロのジャーナリスト*5も、アマチュアジャーナリストの仕事に対しては以下のように賛辞を呈しています。
すごいなと思うのは、情報公開制度を駆使する @keikuma さん、ほかにも現地に行く方や実際に問い合わせをする方がいて、単にネット上に転がっている情報ではないものをきちんと集めてらっしゃる。そこらへんの「コタツジャーナリスト」よりずっと優れた仕事をしていますよね。
— 神田大介 (@kanda_daisuke) 2013, 9月 21
しかし、彼らアマチュアジャーナリストは、やはり補助線を引くことができていません。武雄市の問題がなぜ、どのような形で、どのくらい問題なのか。それをわかりやすく市民に提示することができていません。その結果、彼は「プロのジャーナリズムにはそぐわない案件だ」、という見解を以下の通り呈示しています。
まずは問題点を絞り込むことから初めてはどうでしょう。 RT @monoprixgourmet: 少なからず賛同する人々がいる理由も知りたいのです。ただ、そこまで検証しようとすると地方の抱える問題点まで扱わなければならないので、さらに大変な作業になってしまいそうですが…。
— 神田大介 (@kanda_daisuke) 2013, 9月 21
何がニュース(=問題)なのかを提示することこそがジャーナリズムです。取材・執筆だけではありません。 RT @seijimatsuda1: 箇条書きにされた事項が「何故問題であるか?」というのを理解してもらうのが難しいのではないかと思います。 @yasuTOP
— 神田大介 (@kanda_daisuke) 2013, 9月 21
エラソーに注文をつけさせてもらえるとすれば、問題の所在を誰にもわかりやすく見せる、「一からわかる武雄市問題」みたいなサイトがあると良いのではないでしょうか。ネット上の文章は冗長になりがちなので、なるべく簡潔に、どうして少なからぬ人が批判をするのか伝わるように。
— 神田大介 (@kanda_daisuke) 2013, 9月 21
新聞記者の立場から言うと、この問題は「見出しが立てにくい」。切り口が多すぎ、記事にすると散漫になってしまうという印象を持っています。まさに、ネットで有志が報じるうってつけの題材だと思うのですが、いかがでしょうか。
— 神田大介 (@kanda_daisuke) 2013, 9月 21
これまで武雄市を巡る問題について、朝日新聞や私に取り上げてほしいという要望をいくつかいただいています。私はむしろ、この問題はぜひネットのジャーナリズムとして追及を続けてもらいたいと思っています。マイルストーンになる可能性があるのではないでしょうか。
— 神田大介 (@kanda_daisuke) 2013, 9月 21
もちろん、一つの言い方をすれば「アマチュアがもっと頑張れば結果を出せる」という読み方かもしれません。ですが、「アマチュアの仕事はこの程度にすぎない」というメッセージも読み取れるような気がします。
プロの仕事は、見出しを立てて、何が問題なのかを社会に向けて明確に提示すること。現時点でアマチュアジャーナリストはこの仕事ができていないように思います。
どんな事案でも、情報を集めるだけではプロの技にはなりません。単なる自己満足です。アウトプットがあってこそのプロの技。
倫理観がない!
そして最後に。浦賀の件でMLログの内部告発を受けて調査を進めている彼の過去発言をごらんください。2つめ以降の問題は別HNですが、複数のルートによる調査から同一人物である可能性が十分に高いと考えられるためURLを貼り付けました。
クルアーンで豚肉を焼こう(使命感
— ktgohan (@ktgohan) 2015, 1月 11
こういうことをやってる人相手に情報提供するってのは、それはそれで明らかにまずいと思うんですよね。いくらジャーナリストに対する内部告発だからといっても、
一方、今回の内部告発がなされなければ、浦賀の件の構造が闇に葬られていたことはおそらくほぼ確実。ファクトが不足しすぎです。*6なので、内部告発が良い結果を生み出したことは確かです。
倫理観のない「ジャーナリスト」に対して内部告発をしなければ事象の構造を解き明かすことができない、という状況自体が良いものとは決して思いません。
何らかの解決を考えて行かなければならない問題でしょう。
問題点のまとめ
トータルで見ると、アマチュアジャーナリズムには以下のような問題があり、全体がある程度きちんとした意思をもって解決しようと試みないと解決困難なのではないか、と考えます。
- アマチュアジャーナリストに倫理が求められていない結果、倫理観に欠如したジャーナリストがジャーナリズムを発揮してしまいます。その先にあるものはジャーナリズムではなく、プロパガンダになってしまうのではないでしょうか。
少なくとも今年1月の時点(=ISISによる日本人殺害事件が熱かったですよね)に「クルアーンで豚肉を焼こう」と言い張るのは完全なアウトです。 - アマチュアジャーナリスト、特に集合知をベースにした活動を展開するアマチュアジャーナリストには、補助線を引いて問題を明確に絞る力が欠けていると考えます。
アマチュアは自分たちの出す結果に満足することが本質的な存在意義ですし、アマチュアの存在が害悪とは言いませんが、情報に補助線を引くためには集めた情報の一部を捨てる必要もあり、アマチュアの楽しみとは時に矛盾することもあります。*7
*1:権利はなくても先人たちへのリスペクトは有益ですが、上記記述は権利を大前提としているので権利についてのみ議論します
*2:競合他社が自社のサイトを丸コピーした事案。ケットコムと浦賀~は競合とは言えないと考えます。
*3:著作権侵害は親告罪ですが、今回適用が想定される偽計業務妨害は親告罪ではありません
*4:浦賀の件を調査しているktgohan氏も、武雄市をめぐる一連の問題に刺激を受けた形跡があります。
*5:下記ツイート、そして本記事執筆時点では、彼の立場は朝日新聞のテヘラン支局長でした
*6:某結婚式の件が完全にデッドスタックした理由もこのあたりにあります。女性向け即売会は男性向け文化圏に比べて連絡手段がSkypeやメッセンジャーの類、さらにはリアルでの雑談に依存していて、体系的な連絡手段の整備がなされない傾向が強いです。
*7:例えば、研究論文に全ての実験結果を掲載することはないですよね?すべて掲載したら単なる作業報告にすぎません。プロのジャーナリストだって、取材結果のすべてが記事に生かせるわけではないはずです。