さて、リリースまであと1週間を切りました。
というわけで、交響曲第5番の作品についていくつか語ってみます。まず初回は全般&第1楽章について。
第2楽章&第3楽章はこちら。
第4楽章はこちら(未公開)
交響曲:「5番」を書くということ
「交響曲第5番」の意味
交響曲第5番といえば、一番有名な曲はやはりベートーヴェンでしょう。日本ではしばしば「運命」という副題をもって語られる、あの作品です。
ハ短調の「ジャジャジャジャーン」ではじまりハ長調で終わる、「闘争からの勝利」を体現したまさにドイツ的な交響曲。この作品は、ひとつの交響曲の規範を作り出すことになりました。規範となった作品である以上、多くの作曲家がこの作品に向き合い、伝統ある「5番」を引き継いできました。
例えば、マーラーの交響曲第5番はこちら。
この曲も嬰ハ短調の葬送行進曲「ジャジャジャジャーン」*1ではじまり、最後は輝かしいニ長調で終わります。
もっと近年の作品になると、吉松隆の交響曲第5番も「ジャジャジャジャーン」ではじまります。
こちらはト短調の「ジャジャジャジャーン」ではじまって、最後がハ長調。
「闘争からの勝利」のコンセプトで言えば、ショスタコーヴィチの5番もその一幕に含まれるかもしれません。*2
この作品は重苦しいニ短調で始まり、最後はニ長調です。短調→長調の構図が、「闘争からの勝利」を刻印します。
ショスタコーヴィチはこの作品の前に番号通り「交響曲第4番」を書いていましたが、同時期に書いていたオペラ「ムツェンスク郡のマクベス夫人」がソビエト共産党から批判を受けた結果、モダンでロマン主義的=当時のソビエトにおける芸術が従うべきとされていた公式イデオロギーに反する4番は封印せざるを得ない状態に追い込まれ、イデオロギーに従った作品としての5番で名誉回復をなしとげました。なので、おそらくソビエト共産党の公式イデオロギーに従えば&5番が闘争からの勝利を描いた作品だとすれば、5番の闘争相手は資本主義なのですが、普通に考えてどうなんだか……
チャイコフスキーの交響曲5番は、冒頭が「運命の主題」と呼ばれることもあります。
この曲はホ短調→ホ長調で、最後は(定番通り)輝かしい勝利で曲を閉じます。
過去のあかみ作品:大規模オーケストラ作品について
わたしも、高校時代に番号つき交響曲を第4番まで書き上げていました。なので次は5番なのですが、色々あって「5番」を形にするには16年もかかってしまいました。
……16年前から5番のプロジェクトはずーっと続けていて、かなりの量のスケッチは描いていたのですが、昔から思っていたことを自分の作曲技術で形にするにはまだまだ力が全く足りなくて、それでアイデアを2曲分お蔵入りにしています。
過去の作品はこんなラインナップになります。まずは交響曲を4曲
1番:一応書いていたのですが、お蔵入り。コンセプトや作品構成的にもかなり無理があって、ちゃんとした形に整え直すのはちょっと無理かな……5楽章構成、フーガを1楽章に持ち、アレグロ楽章とスケルツォを経てアダージョ2つにて幕を閉じる計画でした
2番:こちらは4楽章構成。普通の2管編成で、通常の構成を持つ作品なのですが、当時在籍していた中学・高校のオケで演奏することを想定して特殊楽器や演奏技術面で自分にかなりの制約を課した構成でした。オーケストレーションや構成力も稚拙なので、いまリライト中だったりします。
3番:単一楽章の交響曲。シベリウスの7番に盛大に影響を受けていました。こちらは素材単位までバラバラにして、主要な素材をMagna Solemnitasに転用。
田園詩曲(4番):自分の交響曲では最も野心的な構成・編成をもつ作品です。当初のアイデアは「交響曲としてのフォルムを持つ小品集」だったのですが、気付いたら終わりの楽章ほど肥大して、トータル90分クラスの大規模な交響曲が仕上がってしまいました。第3楽章(スケルツォ)をベスト盤“ad Bacchum!”へ収録。
で、これから16年ほど交響曲とはご無沙汰になりました。その間も同人音楽活動で交響曲規模の大規模オーケストラ作品は何曲も書いていたのですが、「番号つきの交響曲」という概念に相応しい構成原理を持つ作品が一度もなかったのですね。
交響曲と通し番号で5曲目は、オータムリーフ管弦楽団の第1回定期演奏会でやったKey組曲。「ほぼ」交響曲としての作品構成ですが、楽章間の連関やトータルのコンセプトをあえて絞り、「交響曲」としては成立しない構築にしてあります。こちらも編成拡大のうえ、打ち込みでリリースに向けてちらちらと作業を進めています。
6曲目は、織姫交響楽団でやった「天使~」。構成的には前奏曲+交響曲をベースにして、私の初めての歌モノになります。今から見るといろいろと考えたいこともありますが、オーケストラを扱う技術自体はオータムリーフ管弦楽団から引き続いて、かなり身についてきたかな?と思う時期の作品。
7曲目は”Khronos”。こちらはボカロを使った大規模作品で、同人音楽x大規模組曲に相応しい作品構成原理の実験をやっていました。ハーモニーやメロディーの扱いは自分の昔の作品(田園詩曲)とかに近いのですが、全体の構成原理は楽章間の共通動機や中心の1曲をもとにした大規模なアーチ構造など、色々と面白いことができたと思っています。
8曲目は”Lost Family”の組曲。こちらは構成原理こそボイスドラマの拘束を受けてライトモティーフの仕込みをかけている程度ですが、ハーモニーやメロディーの取り扱いでKhronosと表裏一体とも言えるような実験をいろいろやっています。
9曲目は先日リリースした”Magna Solemnitas”。交響曲というよりはミサ*3なのですが、織姫オペラシアターでやりたかった同人xオーケストラx合唱のコンセプトに対して、小さなサークルなりの答えをテクノロジーを駆使して提示できたように思います。
そして、今回の「第5番」はようやく作品構成原理そのものが交響曲相当のものになりました。ごくスタンダードな4楽章構成で、作品全体を貫く2つの動機を設定しています。
……10曲目に辿り着いたので、とりあえず「9曲目の呪い」はクリアしたものと思われます。次は「第9の呪い」ですが、こちらはどうしようかな……
第5番について
今回世に解き放つ「交響曲第5番」の構成は、ごく普通の4楽章構成です。ソナタ・アレグロがあって、スケルツォがあって、アダージョがあって、フィナーレが来る、という形式。
ざっと45分前後のボリューム感なので、近年のガチ交響曲では少し小粒気味といったところでしょうか。その分あかみ作品のわりには聴き疲れしないと思われます^^
オーケストラ編成は3管編成。picc, 2 Fl, 2 Ob, E-Hr, 2 Cl, Bass-Cl, 2 Fg, C-Fg, 6 Hr, 3 Trp, 3 Trb, Tub, Timp, Harp, Str. になります。近年の私の作品と比べると、打楽器が小さめ・ハープ1台、といったところで穏当な編成表。*4
交響曲を書くということ
若いころ(?)はばんばん交響曲を書いていたわけですが、ベートーヴェン以後の作曲家にとって「交響曲」ってのは軽いものじゃありません。吉松隆流の定義によれば作曲家が「交響曲」と命名した作品はすべて交響曲なのですが、そのタイトルをつけるということは自分の作品をベートーヴェンやブラームス、チャイコフスキーやブルックナー、マーラーやショスタコーヴィチの偉大な作品群の後に位置づけるということ。必要な気合いは並大抵ではありません。
交響曲と名付けるためには、その作品に交響曲と名付けるに値するだけの格式と構造、精神性が必要です。単純に4曲かき集めてそれを交響曲と言い張っても、交響曲に見合う作品とは言えません。
KhronosやMagna Solemnitasを通じて「同人音楽らしい構造」は見えてきましたが、それは(たしかに同人音楽におけるストーリー性を強く反映していたとしても)交響曲の構造とはまた異なるものです。逆に言うと、交響曲としての構造が同人音楽の精神性を反映しうるかというと、また別問題が生じます。
そういう意味で、同人で「交響曲」を出すのはなかなか難しい……ような気もしています。自分で書いておいてなにですが、そう思うところです。
それとまた別の理由で、同人で「交響曲第5番」を出すのは難しい!だってエゴサーチ壊滅的じゃないですかwwwww
それはおいといて、なんだかんだで16年ぶりに交響曲を世に出すことができました。まずは御礼申し上げます。
このあと6番以降の計画は今のところありませんが、そろそろ合唱つき交響曲やりたいな、と思っていたりします。Magna Solemnitasで合唱を扱うスキルもつきましたし、次の人魚姫企画の後くらいに何かやるかも。
第1楽章:ソナタ・アレグロ(?)
当然(?)、作品の頭は「ジャジャジャジャーン」ではじまります。運命は扉を叩きます。
なお、以下の楽譜は(楽器名が移調楽器のように書いてありますが)すべて実音表記です。つまり楽譜に書いてあるとおりの音が鳴ります。*5
しかし、ベートーヴェンや吉松隆のように、決然とした運命ではありません。マーラーのように何かを告知する運命でもありません。
おもむろに、そして控えめに、運命は扉を叩きます。
運命の主題に対して、下降する3つの音が呼応します。
本作品の重要なモチーフは以上の2つ。「ジャジャジャジャーン」と、3つの下降音です。
序奏が終わって主部はこんな感じ。第1主題のチェロのメロディーも、3つの下降音からできています。
第1主題、第2主題と型どおりに進み、提示部(第1主題~第2主題)を繰り返して展開部、そして再現部と型どおりのソナタ形式。
コーダのトランペットのメロディー、こちらも「ジャジャジャジャーン」と3つの下降音が原材料です。
1楽章は全般的に歌謡的要素が強い楽章な分、精密な対位法の類はあんまり出番がないです。
今後の記事
2楽章以降の記事も書いていきます。
連日体制で出せればいいな……