M3フリースペース問題:もう一つ?の観点

M3のフリースペースで変なもめごとがあったみたいです。曰く、権利面でクリーンとは言えない作品の演奏はNGという。
まあ当たり前といえば当たり前です……が世の中の普通の話。で終わればこのブログエントリは必要ありません。

もともと私とM3準備会は「揉めっぱなし」というより、「つぎに問題が解決するのは最速で来世」くらいのアレな状況なんですが、それは置いといて重要な観点をいくつか提示しておきます。

一体何があった?

Twitterで見る限り、こんなオチみたいです。

  • あるサークルが、M3のフリースペースで通常権利面でクリーンとは言えない音楽を演奏した(アニメ関係だったとのことで、アレをクリーンにするのは簡単じゃないです)
  • フリースペースの演奏規則に反するということでスタッフから制止があった。どうも言い方が荒っぽかったようです
  • 確かにM3のフリースペースでは権利面クリーンではない作品を演奏してはいけないルールに2019/秋M3から変更されていたが、その変更は強調されていなかった
  • 今後のM3では、「演奏されるものの権利はM3準備会がクリアにすべきで、その体制を現在のM3は持っていない」という理由で許諾が必要な作品の演奏を一切禁じた

問題点その1:期待マネジメント

同人二次創作の世界が著作権的にカオスだ&それをなあなあの黙認で回してきたのがこの世界だ、ってことはだれでも知ってるはずです。
そして、それがNGなイベントがあることもみんな知っています。コミティアは著作権的にカオスなものは当然出せません。

みんな、同人二次創作の場は「著作権的にカオスである」ことを前提にしている、という期待値があるのです。権利者がNGと差し止めるならともかく、二次創作の権利問題で主催者が差し止めるってのは(まあディズニー同人とか任天堂同人で変なことやられたら話は別かもしれませんが/コミケの評論ジャンルでは引用ルール違反については頒布差し止めやってるみたいですが)普通はやらない。

著作権のなあなあ・カオスさを理由にしてプロは二次創作同人の世界にかかわりづらいとしている主張は山ほど見かけますし、サブカル楽団系はプロがプロとしてかかわることを前提にしているところが多く基本的に権利を完全クリーンにする方向で考えています。それこそ副次的文化系合唱祭では演奏の権利面がクリーンであることをルールに求めているほどの話です。
音楽以外のジャンルでは「許諾を取ろうとすること自体ふざけるな」って声が主流ですが、音楽だけは許諾を取って同人活動するアプローチがそこそこ普及しています。JASRACにお金を払ったことあるサークルは少なくないんじゃないかな。

とはいえ、やはり同人は同人。M3は「同人」を謳っている以上、とりあえず前提として二次創作がらみの著作権はカオスだ、ってことをみんなが想像・期待していると考えるのは難くないです。
建前上はそんなことないのかもしれませんが、ここは本音で考えましょう。もめごとは建前ではなく本音で起きます。

てわけでM3準備会は、ルール変更その他で参加者に説明することに失敗していた、少なくとも期待を変えておくことはできていなかった、という事実を指摘します。
こういう「関係者の期待を制御する」って営みは「期待マネジメント」とも言われて、ビジネスの世界でもけっこう重要だったりします。人間って契約書じゃなくて本音と心で動くんですよ。そして契約相手の先には人がいるんですよ。

問題点その2:そもそも権利処理の主体がイベントっておかしくないか?

音楽著作権ってそもそもどこも法律通りに動いてません……というのは事実なんですが、それにしても「イベント主催が権利処理の主体」っておかしくないですか?
同じことをCD頒布エリアに適用したら「二次創作は頒布ダメ」ってことになりますよ?二次創作CD頒布と演奏の違いなんて、複製権と上演権の違いくらいです。背後の法的問題構造はほぼ同じです。(というかむしろ上演権のほうが逃げ道あるくらいなのに……)

そしてM3がこの方針を取ってしまった以上、ほかのイベントが同じ枠組みに巻き込まれる可能性もないとは言いません。コミケとかな!
即売会がサークルを守るために、即売会も作品をチェックする、って枠組みは確かにあります。それは頒布の主体として即売会「も」責任を負い、即売会がサークルを守れる枠組みだからです。
まあ実際に訴訟に突っ込んだらどうなるか分かったもんじゃないですがね……即売会自体がわいせつ物陳列罪で罪に問われた事例ってないでしょ、たしか……

てわけで、「権利処理の主体がイベントだ」ってのはさすがにちょっとおかしいわけです。どう考えても!
サークルが主体じゃないと、あらゆる問題は「営利スケールでイベントを回している」M3準備会に押し付けられますし、それでM3の存在守れるんですか?って話になっちゃいますよ?

どうすべきだったか/今後どうすべきか

ただ、答えがさくっと出てくる性質のやつじゃありません。ってのは、これM3がほんとに独力で考えたのか?って疑問があるんですね。言い換えると権利者からの圧力がなかったか?と。M3界隈はなんだかんだ言っても音楽業界とのつながりがあります。業界として二次創作によるカオスな著作権の扱いをどう考えていたか。
最近はサブカル合唱のようにアマチュア二次創作でも権利許諾を取って進める空間があります。権利者として、サブカル合唱のような枠組みと同人的な枠組みの併存を黙認できるか?これこそ下手な同人的枠組みの黙認よりはるかにハードル高いですよ。

……となると「サブカル楽団の枠組みが同人二次創作を叩き潰した」って話にすらなりかねないのですが、個人的にはこれはしょうがないと思ってます。
10年くらい前に「同人二次創作は長期的には合法的な範囲でしかできなくなるだろう」と予想して少し炎上しかけたことがあるのですが、結局その動きが具現化しているだけですから。

ただ予想当時に比べてよいこともあります。二次創作可能な空間がかなりの部分明確化されていて、東方や艦これ、SCPがらみなどは自由に可能です。アダルト/美少女ゲーム系でも比較的可能な範囲は広いです。
この「可能な範囲」を少しずつ広げていく、というのが私たち同人界隈の人にできることかもしれません。権利者に少しずつ働きかけをしていくことで、権利者側が同人二次創作的なものをガイドラインベースで許諾する、というアプローチ、可能な範囲は確実にあるでしょう。

将来的にはM3をはじめとした同人即売会自体を著作権特区として位置付けるような法改正、そして根本的な解決としてフェアユースの導入まで行ければよいのですが、フェアユースは大陸法(日本をはじめとする国々の法体系)と相性悪い気がしています。

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